HTLV-1(ヒトT細胞白血病ウイルス1型)は、主に免疫を担うCD4陽性T細胞に感染するレトロウイルスです。母乳、性行為、輸血などを介して感染し、一度感染すると体内に長期間とどまります。感染者の多くは無症状ですが、一部で成人T細胞白血病(ATL)や、脊髄に慢性炎症が起こるHTLV-1関連脊髄症(HAM/TSP)を発症します。HTLV-1は感染細胞を増やしながら免疫から巧みに逃れる性質を持ち、長い年月をかけて病気を引き起こすことが特徴です。日本では主に九州・沖縄地域に感染者が多いことが知られています。HTLV-1は約10kbの一本鎖RNAゲノムを持ちます。感染後、逆転写酵素によりDNAに変換され、宿主細胞のゲノムに組み込まれます。ゲノムの両端には転写を制御するLTR(long terminal repeat)が存在します。中央には基本構造遺伝子であるgag(構造タンパク)、pol(逆転写酵素など)、env(外被タンパク)が並びます。さらに特徴的なのは、pX領域と呼ばれる調節遺伝子群で、TaxやHBZなどのタンパクをコードし、ウイルス増殖や感染細胞の増殖制御、免疫回避に重要な役割を果たします。この複雑な遺伝子構成がHTLV-1の持続感染と病態形成を支えています。

病原体が体内に入ると、まず免疫細胞がそれを見つけて取り込み、その特徴(抗原)を他の細胞に伝えます。リンパ節でT細胞がその情報を受け取ると活性化し、増えて働く細胞に変わります。ヘルパーT細胞はB細胞を助け、B細胞は抗体を作って病原体を攻撃します。細胞傷害性T細胞は、感染した細胞を直接壊します。感染が治まった後も、一部のT細胞やB細胞は記憶細胞として体内に残り、同じ病原体が再び入ってきたときに、より早く強く反応できるようになります。
HTLV-1に感染したCD4T細胞は、体内の「異常な細胞」として免疫系に認識されます。感染細胞の中ではウイルスタンパクが作られ、その一部が細胞表面に提示されます。これを見つけるのがCD8陽性T細胞(キラーT細胞)です。T細胞はT細胞受容体(TCR)でヒト白血球抗原(HLA)上の特定のウイルス抗原由来ペプチドを認識すると活性化し、感染細胞を直接攻撃して排除します。また、サイトカインと呼ばれる物質を分泌して他の免疫細胞を助け、抗ウイルス反応を強めます。

ATLにおいても、HTLV-1由来抗原(例:Tax)を標的とするCD8T細胞が存在し、腫瘍化前の感染細胞の制御に重要と考えられている。しかし、長期の抗原刺激によりCD8T細胞は機能低下(疲弊)を起こし、増殖能や殺傷能が低下する。また、腫瘍細胞側も抗原発現の低下や免疫抑制分子の発現亢進によって免疫逃避を行う。その結果、CD8T細胞による監視機構が破綻し、ATLの発症・進展につながると考えられている。

HTLV-1関連脊髄症(HAM/TSP)では、HTLV-1抗原(特にTax)を認識するCD8T細胞が末梢血や脳脊髄液中で増加し、強い細胞傷害活性と炎症性サイトカイン産生能を示す。これらのCD8T細胞は感染T細胞を排除しようとするが、過剰かつ持続的に活性化されることで脊髄内に浸潤し、周囲の神経組織に炎症を引き起こす。特にIFN-γやTNF-αなどの産生によりグリア細胞が活性化し、慢性的な組織障害が進行する。その結果、下肢の痙性麻痺や排尿障害などの症状が生じる。つまりCD8T細胞は、ウイルス制御と同時に病態形成にも深く関与する両義的な存在である。
